持続可能な社会を考える 「みんなにやさしいファッション」
活動・取り組みその他
今日は、こんにちは、ゆうあいセンターSDGs&CSR相談員 小桐です。
4月に投稿した「自分の着る服」に続いて、今回もファッションに関係するテーマでSDGsを考えてみたいと思います。
前回は、『自分』についてで、今回は『みんな』という点が違うのですが、『みんな』の範囲を皆さんはどう考えますか? 自分の周り、あるいは同世代、日本人全体、世界全体という捉え方もできますね。はたまた、人間以外の生物まで広げることも可能です。時間軸で考えて見ると、今現在、少し前、ずっと昔、ずっと未来のみんなを想像する人もいるでしょう。今の世代、過去の世代、未来の世代という捉え方もできます。
少し、理屈っぽくなりましたが、今回は5月14日に開催された山陽新聞連続シンポジウムを軸に「みんなにやさしいファッション」を考えて見たいと思います。
同シンポジウムには、色々な方々が登壇され「みんなにやさしいファッション」について話題提供をされました。ある意味老若男女、色々な世代や立場からの発言であったと思います。
あくまで、話題提供は一つの視点であり、人によっていろいろな捉え方があって良いというのが従来のシンポジウムとは異なった方向性だったと感じました。
シンポジウムの模様は、下記サイトで6月中旬まで視聴できますので、是非ご覧ください。
https://c.sanyonews.jp/release/2022/04/20220414000000.html
冒頭、モデレーターのSDGsネットワークおかやまの代表 石原 達也 会長からは、SDGs視点で考えるために「目標12 つくる責任使う責任」とファッションに関しての関わりの話がありました。
目標12の中で、ターゲット12.4「製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する」、 ターゲット12.5「廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」、 ターゲット12.8「持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする」 が今回の『みんなにやさしいファッション』に関係している。
それが具体的にどう関わるかはパネラーのお話の中から浮かび上がるということでした。
次にもう一人のモデレーター 山陽新聞社 論説委員会主幹 岡山一郎氏からは、「ファッションロス」の説明がありました。「衣料品のライフサイクルの短命化」により無駄に捨てられる衣料品の現状、捨てられた衣料がごみ問題となっている(『アメリカやヨーロッパ、アジアで不要になった約5万9000トンの服が毎年チリの港に届く。このうち3万9000トンはアタカマ砂漠の廃棄場に運ばれる。砂漠に運ばれた大量の使用済みの服は一帯を覆うほどで"ファストファッションの墓場"が急速に拡大している。』)や製造する際に膨大なエネルギーや水資源を使い環境負荷が大きい産業(全産業中ワースト2位の環境破壊)ことなどの紹介があり、ファッションでの持続可能性を考える必要があることを提起されました。
最初の話題提供者は、倉敷市 児島のジーンズアパレル 「ベティスミス」の代表取締役社長 大島 康弘氏。同社と日本のジーンズの歴史やジーンズ製造工程の解説、製造ロス商品のリメイクによる新しい商品の紹介や環境に自然のサイクルとシンクロした優しいジーンズについてのお話をされました。
日本で女性向けのジーンズを生産したのは同社が最初です。2002年に地場産業としての「ジーンズ」が教科書に取り上げられ、毎年児童2~3千人が訪れるようになり、併設したジーンズミュージアムの見学も行うようになった。来社の記念品を提供しようとジーンズの端切れ等でペンケースの小物制作をしたことが、新たな商品開発に繋がっている。 製造過程では、端切れや付属品の余りが出たり、一部不良商品が発生したりする。これらを無駄にせず生かし切りたいとエコベティプロジェクトをスタート。
① 捨てるものを減らすリデュース。②破れたものをエプロンに作り替えるアップサイクル。③長く着続けるロングユース。④製造ロスによる材料などを活用した オーダージーンズやカスタム製品製造を行っている。⑤繊維くずはフェルトに生まれ変わり断熱材として利用されるようにしている。
縫製以外に、ジーンズの洗い加工業者も環境負荷の少ない洗い加工をしている。また、洗いに使った泥土を発酵、たい肥化して野菜栽培に活用したり、てんぷら油から作った石鹸でジーンズの洗いをするなど自然の循環と共に事業を営んでいる。
自社では、段ボールの再利用も進め1/6に軽減。障がい者施設とのコラボ商品を開発、マイバッグなどを製造してもらい働き甲斐のアップと収入向上に寄与している。
2人目の話題提供者は、岡山大学 医学部 名誉教授 難波 正義氏です。「プラスチックごみの困った問題」 ~環境への蓄積/環境変化 人体への蓄積? というテーマで話されました。
きっかけは2018年の科学雑誌に掲載されたミジンコの体内に数個あるプラスチックの小さな粒だった。
というお話から始まりました。ミジンコを小魚が食べ、食物連鎖で大きな魚がそれを食べ、人間がそれを食べる。このマイクロプラスチックの細胞への影響については、文献が出されていないことで研究を始めた。
今年も雑誌ナショナルジオグラフィックにはプラスチックごみの写真が掲載された。インドのガンジス川にプラスチックを流している。世界で一番プラごみが集積しているところと言われている。河口はバングラディシュ。モンスーンの影響でプラスチック類は海に沈む。2050年には魚よりもプラスチックの量多くなると予測されている。インドネシアで打ち上げられたマッコウクジラの胃の中には、非常に多くのプラスチックがあった。硬いプラスチック片19個その他、サンダルやビニールの袋やひもなど。これだけ食べれば栄養障害で死ぬことは明らか。
細胞培養の実験を行った。培養細胞で毒性を調べると敏感なので良くわかる。 サランラップ(塩ビ)をアルコールの中に入れて細胞への影響を確認したところ、とても強い毒性で細胞が破壊されることが分かった。ただし、幸いにも遺伝に影響を与えることはないとわかった。そして、プラスチック本体でなく、添加剤に毒性があることが分かった。 油物を包んで電子レンジかけると良くないことが分かる。ただし、人間は解毒作用があるので、影響が出ることはないと業界では表示している。
次に貝類への影響を確認した。牡蠣には、一つの中に1~2のプラスチックの糸くずや破片などが入っていた。魚類にもプラスチックが見られた。東京湾では77%、大阪湾や琵琶湖では40%ほど。魚類は、内臓を取れば安心。ただし、貝類のプラスチックは気を付けて欲しい。
洗濯で、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの繊維が抜け落ちて、川から海に流れる。
話しは変わるがダイオキシンなどの内分泌かく乱ホルモンの影響が取り上げられた時期があった。それが、この繊維くずでの影響があるかは長い時間がかかるのでわからない(100年単位か)が、魚は雌化する傾向があることが報告されている。近年、男性の精子数が減っていることも報告されている。
「GO GREEN」 環境・自然を保護する 100年後を考えて行動しないといけない。プラスチックの利用を減らしていこう。
この話を受けて、岡山氏は、今後プラスチック糸くずの問題はさらに広がっていくと考えられる。カナダの調査では大量の糸くずが北極海にまで達している。世界中どこの海でも糸くずはあると思われる。その問題提起であったと付け加えました。
3人目は、正宗 幸子さん 倉敷芸術科学大学 ファッションテキスタイル科講師、ファッションコンサルタントの会社を立ち上げ、カラーコーディネイターとしても活躍中。SDGsネットワークおかやまの会員で学校での出前授業も行っている方です。ファッション界全体についてのSDGsに関係する先進的あるいは、一般的な取り組みを紹介されました。
販売した衣類を顧客に持ってきてもらい、リユース、リサイクルするサーキュラーエコノミーが活発化してきている。ファッションとしては糸づくりから店舗で販売するまでを大きく3つに分けて川上(糸と生地)、川中(デザイン、縫製て服作り)、川下(販売)と呼んでいる。
川上の染色では、水を使わないイオン加工で染色する方法、色を削って染色したように見せるレーザープリント方法などもある。ウールの糸や綿の糸は再生可能で再び糸ができる。衣料を新しい形にして再利用するリデザインの動きもある。モノづくりの楽しさを人々に伝えて、興味のある人は、自分でリメイクをすると良いと考える。
色・デザインについてはユニバーサルデザインとして話をしている。色・デザインで性差別をしてはいけない。最近、ジェンダーフリーの動きとして、デザイナーのコレクションショーでは、男性モデルがスカートをはいたりするし、女性モデルでは、従来の細いモデル体型だけでなく、ぽっちゃり方の人がいたりする。
以上が概要でした。
続いて、岡山県での事例を紹介されました。 川上では、『倉敷染め』 織物・染色加工協同組合では、安心安全で人に優しい染色を行っている。 エコテックスという認証を受けている。
川中では、オーガニックコットンという地球(殺虫剤を使わない)にやさしく本人の骨格・スタイルにあったパンツを作り、売り上げの一部を子どもに支援するラフトモ(明日も笑顔で)というアパレルもある。
川下では、来乎舎(きこしゃ)モダンが、古布(着物や帯)を使って今流の服を製造している。NPO法人地域資源研究所では、学校と畳縁を作る高田織物とデニム生地の端切れのコラボでトートバッグや帽子などを作成してもらった。
ここからは、正宗さんのファッション教室が開校します。ファッションの要素ではカラー、素材、デザインがあり、自分に似合うファッションを身につけると本人もハッピーになり、服も長く着るという視点でのSDGs貢献です。
次に登壇されたのは、浴衣や和服のきもの素材を使ってリメイクや新しい浴衣(アクティブフリルゆかた)を作っている田中朋子さんです。本業は和服の美容師・着付け師、現在は着物を着る機会が減り、使わない着物をなんとかしたいという声を聞いて、リメイクを始めた。1枚の浴衣から考えるSDGs この考え方を若い世代と一緒に考えていきたい。ものではなく思い出を形に変えて着用できる服作りをしている。
壇上で、岡山氏に浴衣をリメイクしたベストを着用してもらい紹介。他に数人にもクールビズウエアなど着用してもらい紹介されました。 下電ホテルのスタッフウエアや病院での医療着からスタート。
岡山県セルプセンター田中正幸氏からは、このプロジェクトを障がい者の方々の仕事として具体化しようとしているとの説明がありました。
続いて、シンポジウムの司会も務めてくれた、倉敷鷲羽高校の新聞部4名の生徒が登場。倉敷市のアパレルのSDGsに関する取り組みを取材した報告がありました。「エシカル(倫理的な)につながる今と未来」というテーマです。 みんなでハッピーになるために自分たちで何ができるか、地域の人と活動したことなどを発表しました。
1社目は、「桃太郎ジーンズ」のジャパンブルー。同社は、アフリカ コートジボワールで、バナナの伐採後に捨てられる10億トンもの茎の繊維を原料として作られたジーンズ生地からジーンズを縫製。売り上げの一部を現地での機械導入の支援に充てているということでした。また、破れたジーンズを刺し子でリメイクして長く着ることが出来る取り組みも行っています。
2社目は明石スクールユニフォームカンパニー。同校の制服を製造するメーカーです。制服素材には、PETボトルの再生ポリエステルが使われています。(学校制服の生地では再生PETを使った生地は20年近く前から採用され、広く普及しています。)この生地は、製造時に、石油から作ったバージンポリエステルと比べて、温室効果ガスの排出が61%少なくなっています。
同社や多くのアパレル・小売業者が参加する「BRING」という取り組みでは、着古した衣料品を回収し、分別し、ポリエステルを循環して服の原料にしています。
https://bring.org/pages/concept
県内にも多くの回収拠点があります。
https://bring.org/pages/bringmap
同校では、学科再編のモデルチェンジで着られなくなった制服や体操服をBRINGでの回収を呼びかけで約80点が集まった。
新聞部が作った上記の情報を校内はもとより、地域の子供食堂でも配布しています。このように情報収集と発信、地域への貢献と行動がエシカルな未来につながるバトンとなると考えている。
次に制服のリユースショップの紹介がありました。 岡山市東区西大寺 五福通りにある古着屋ループ 店長の樋口さん。地域の、小学校から高校までの制服までを、無償で引き取り、クリーニングをしてから有償で販売しています。 この他、和服をリメイクしてパンツをつくり、長く着られるようにした「袴パンツ」があります。
この後は、「長く、丁寧に着るには」についての意見交換がありました。 ファストファッションでなく、愛着を持って長く着るには、似合う服を見つけることが大切と言う事で、そのためのテクニックを正宗さんが紹介してくださいました。 ファッションは、「カラー」✕「素材」✕「デザイン」 、色には自分が似合うパーソナルカラーがある。そして骨格に合ったものを選ぶと良い。実際に女子高校生をモデルにして似合う色を見つけたり、骨格にあったパンツをシルエットの違ったものから見つけ出すデモンストレーションを行いました。
プラスチックが使われている素材は、洗濯中に糸が抜け落ちたりするが8回ほど選択すると落ちなくなることなどの情報提供もありました。 昔は、天然繊維で服を作っていたので、自然と分解されましたが、プラスチックはなかなか分解されません。
ここからは、筆者からの情報提供です。
トウモロコシなどのデンプンを乳酸発酵させてつくる、生分解性ポリエステルというものがあります。値段は高いですが、もともとデンプンなので分解していく過程は環境負荷が少ないです。ただ、デンプンを多く作ろうと遺伝子組み換えの種類をつくるので、環境に優しいかどうか、また、栽培方法によっては農薬も使うのでどうなのか?という疑問もないわけではありません。
天然繊維は、その糸の持つ本来の長さや太さと撚りによっていろいろな風合いの布が出来ます。糸の撚りを多くすると糸は強くなります。その糸を使って打ち込み(縦糸、横糸の密度:本数)を増やしたり、織り方を変える事で、丈夫な布になったりします。その分丈夫な服になりますが、硬く・厚くなりがちです。
布は、用途により、糸の太さ、撚り回数、打ち込みが変わります。丈夫=良い服というわけでもありません。
同じ綿(コットン)でもオーガニックコットンでない場合は、栽培時の農薬使用により環境負荷が増えたり、遺伝子組み換え種子であったり、児童労働の問題など環境・社会の問題があったりします。(農薬が生まれるまで、世界のすべての綿はオーガニックコットンでした)。
染色で糸や布を染める際にはきちんとした廃液処理をしないと公害問題にもつながります。
そう考えると、オーガニックコットンで、染色をしない服が環境や人には優しい服になる可能性が高いと言えるかもしれません。日本でも「アバンティ」というアパレルは、白い綿以外に茶色の綿(緑色の綿もある)などを使い、染色しない服を作っています。
小職は元制服アパレルで企画の仕事をしていた関係で、自らオーガニックコットンを栽培した経験もあります。そこからいえることは、ファッションは農業と大きく関わっているということです。
綿栽培の歴史を学べば、エシカルなファッションの未来が新たに見えてくるかもしれません。
私事で恐縮ですが、1枚のボタンダウンシャツを20年ほど着ています。緑色のギンガムチェックの柄です。最初長袖の袖口がほつれたので。左右のカフスを入れ替えて表裏変えて着ていました。次に襟が擦り切れたので、外して裏表を替えました(ボタンダウンだから出来ました)。そうするうちに、再び袖口が擦り切れました。思い切って半袖にしました。今でも夏には愛用しています。ミシンで自作しました。不器用でもなんとかなるものです。今は、襟が擦れてきたので今年が限界かもしれません。愛着ある一着です。
「みんなに優しいファッション」いかに自分事にするかを考えるにふさわしいシンポジウムでした。

