持続可能な社会を考える 「エシカルファッション:コットン編」
地域課題・社会課題その他
今日は、こんにちは、ゆうあいセンターSDGs&CSR相談員 小桐です。
岡山でもいよいよ梅雨が明け、暦の上でも水無月となり、本格的な夏がやってきました。今年の梅雨は雨が少なく、夏の渇水が心配されます。水がなければ私たちの暮らしは一日として成り立ちません。
今回は、この水と関係があるファッション産業について考えてみたいと思います。
ファッションと言えば、身につける服であり、靴そして、ベルト、ネクタイ・スカーフやアクセサリー、ハンドバッグ、バッグ・カバン、帽子などそのジャンルもアイテムも多岐にわたっています。
衣・食・住という私たちの暮らしを支えてくれるファッション産業ですが、意外と知られていない事実があります。
◆ファッション産業のデータを少し紹介します。
実は、世界の温室効果ガスの10%を排出していて、「世界で2番目にCO2排出量が多い産業」なのです。1位はエネルギー産業。これは当然ですが、少し驚きですね。
その他、「世界の排水の20%を排出している」(unfccc 2018年8月プレスリリース)
綿花栽培などの現場を中心に「児童労働者数 1億5200万人」(国際労働機関 児童労働の世界推計 推計結果と趨勢2012~2016)
「廃棄物年間 9200万トン(日本だけで10億~30億着)」(PULSE OF THE FASHION INDUSTRY 2017) 日本での新品の生産数は年間50億着なので相当な数量の衣服が毎年捨てられていることになります。データだけで見ると環境・社会面で負荷を与える産業ということが分かってきます。
最近は、SDGsの広がりでファッションについてもSDGs視点で語られることが増えてきたように思います。
「エシカルファッション」という言葉をご存じでしょうか?エシカルとは「倫理的」という意味ですが、倫理的なファッションについて元ファストファッションにデザイナーとして関わり、現在はエシカルファッションを広めるアプリを開発しているTSUNAGUの代表理事 小森 優美さんは以下エシカルな要素を8つのキーワードとしてまとめています。
① フェアトレード:不当な労働と搾取をなくす
② オーガニック:農薬を使わずに栽培され素材
③ クラフトマンシップ:伝統技術や匠の技
④ ローカルメイド:地産地消
⑤ アニマルフレンドリィ:ビーガン(可能な限り動物性の食事をしない、身につけない、傷つけない生き方)など動物の権利を守る
⑥ サステナブルマテリアル:環境負荷の低い素材の活用
⑦ アップサイクル:棄てられるものを再利用
⑧ ウェイストレス:ゴミを減らす仕組みづくり
このキーワードが出るということは、即ちこのキーワードに当てはまらないエシカル(倫理的)でないファッション商品が沢山あるということです。
皆さんが持っている衣料品の中で一番多い素材は何でしょうか? コットン(綿)、ウール、ポリエステル、アクリル、レーヨン、ダウン、レザーなどいろいろありますが、コットンの衣服が一番身につける頻度が高いのではないでしょうか
◆コットン(綿)の知られない不都合な事実
ユニクロなどのファストファッション業界では、Tシャツ 1デザインで2万枚生産し、70%の販売を目指すそうで、6000枚を始めから捨てる計画で作るそうです。
Tシャツ1枚は、重さ約200g。栽培される綿花畑の広さを計算すると大体5.28㎡=2.3m×2.3m。(筆者独自試算)くらいです。6000枚では、31680㎡。 178m四方の畑で1.2tのコットンという農産物が棄てられるために栽培された計算となります。さらに、1枚のTシャツが出来上がるまでには、2,720リットルもの水が使われています。1つのTシャツで この6000倍が棄てられることを前提に栽培されているのでどれだけの資源が無駄に使われたことになるのでしょうか?
コットンはインドや中央アジアなど、もともと水資源が乏しく、貴重な国や地域で生産量の57%が栽培されているため、過剰な水の利用が行なわれると、川や湖沼の水位が下がり、地域の野生生物や人の暮らしが、大きな被害を受けることになります。かつて、世界第4位の湖だったアラル海(東北地方とほぼ同じ面積)は米とコットンの栽培により、50年間で湖の大きさがほぼ1/10になってしまいました。
世界で一番コットンの栽培面積が広いのはインドです、中国と合わせると世界の50%強が生産されています。(引用:Analysis of global crop production overlaid on Aqueduct baseline water stress. Data from Gassert et al. 2013, Monfreda et al. 2008, Ramankutty et al. 2008, Siebert et al. 2013. See WRI.org/Aqueduct©WWF)
WWF(世界自然保護基金)によれば、インド亜大陸を流れるインダス川に生息するインダスカワイルカ。農工業による過度な取水により、生息域の水位低下や汚染が生じ、現在は1,600 頭まで減少。深刻な絶滅の危機に追いやられているとしています。
また、コットンは、80カ国以上で栽培されており、世界の農地の2.5%を使っています。その栽培には、世界全体の農薬の6.8%と、15.7%の殺虫剤が使われています。他の農作物に比べるとやはり沢山の薬品が使われていると言えます。
コットンの総栽培面積に対する遺伝子組み換えの割合は、80%に及びます。遺伝子組み換えでなくかつ農薬や化学肥料、殺虫剤を使わないオーガニックコットンは1%未満という現状です。でも元々は、世界の全てのコットンはオーガニックコットンでした。
バイオ技術(遺伝子組換えあるいはGMの綿種子)の利用など近代的な農業技術を採用している国々では、収穫量が劇的に増加していて、例えば、インドでは、2002年にGM綿の一般使用を認めて以来、8年間に綿花生産は2倍になったそうです。増えて良かったではなく、それにより、捨てられるコットン衣料品が増えたということになりませんか?
◆児童労働とコットン
児童労働とはそもそも「18歳未満の子供が、義務教育の機会がなく、心身の健康的な成長を妨害され、危険・有害な状況で違法に働かされること」と定義されています。適正な対価が支払われる労働や子どもの成長の助けになるような労働は、児童労働には該当しません。
国連の「子どもの権利条約」やILO(国際労働機関)条約など国際条約で禁止されています。
児童労働の内容としては、「劣悪な環境での長時間労働」「 親の借金のかたに無給で働かせる債務労働」「 人身売買による性産業での強制労働」「 子ども兵として軍事行動に参加させること」などがあります。
ユニセフ(国連児童基金)とILOが2021年6月に発表した報告書、『児童労働:2020年の世界推計、傾向と今後の課題(原題:Child Labour: Global estimates 2020, trends and the road forward)』では、
全体の約70%(1億1210万人)の子どもはカカオ工場やコーヒー農園など農林水産業にたずさわっています。残りの約20%(3140万人)は家事使用人やゴミ収集などのサービス業で、約10%(1650万人)は縫製工場などの製造業で働いています(参照:同報告書p.38)。
なぜ、児童労働は起きるのでしょうか?直接的な原因は貧困です。生きるため、家族を養うため、子どもたちは働かなければならない状況にあります。一方、雇用主にとって子どもは、安い賃金で働かせることができるだけでなく、こき使いやすく、捨てやすい手軽な労働力として都合がよいという面もあります。
このような社会構造が続いているのです。なぜ、続くのでしょうか?誰がこの構造を支持しているのでしょうか?考えてみてください。
もう少しコットンの不都合な事実を紹介します。コットン栽培に関係する児童労働はどれくらいなのでしょうか?
児童労働を解決しようと日本、インド、ガーナで活動をしている認定NPO法人ACE(エース:Action against Child Exploitation ※「子どもの搾取に反対する行動」という意味)では、これまでにインドとガーナの28村で2,360人の子どもを児童労働から解放し、約13,500人の子どもが無償で質の高い教育を受けることに貢献しています。
ACEの調査では、インド・コットン生産で働く子どもは48万人で、彼らは安い労働力として、多くの人手が要るコットン栽培の現場で、強い日差しのもと休みなく働き、農薬による皮膚や肺の病気になることもあります。学校へ通うことができません。ガーナ・カカオ生産で働く子どもは77万人います。
◆コットンにおけるエシカルファッションに取り組む人々
これまで見てきた、環境・社会課題を解決するためにコットンに関してエシカルを実現しようという取り組みをいくつか紹介します。
コットン生産に関しては「オーガニックコットン:3年以上無農薬で殺虫剤などを使わず育てた綿かつ遺伝子組み換えでない」 があります。しかし、世界では1%程度の生産量。オーガニックは通常のコットンと比べて手間はかかりますが、価格は高く販売できます。オーガニックコットンは認証マークがあり、きちんと管理されている事が証明されます。製品につけられた認証マークなどを見られた方もおられると思います。
また、このオーガニックコットンを増やすために伊藤忠商事(株)と(株)kurkku alternativeの2社による共同事業で行う「プレオーガニックコットン」事業があります。オーガニックコットンに認定される前に収穫された無農薬で育てられたコットンのことで、正式なオーガニックコットンになる前の、オーガニックへの橋渡しをしているコットンです。オーガニック農法に移行することで、農薬による健康被害、土壌汚染、借金から開放される取り組みです。詳細は下記サイトをご覧ください。このコットンを支援するブランドも確認できます。
http://www.preorganic.com/
染色をすることで、環境負荷があることを冒頭ご紹介しましたが、染色をしないオーガニックコットン商品を作り続けているアパレルもあります。 コットンは、白以外に茶色や緑色のものが存在することをご存じですか? オーガニック製品を通して地球環境の保全と社会貢献をするという経営理念で事業を行うアバンティは、オーガニックコットンを使い、かつ自社ブランドでは、無染色かつ、塩素系漂白剤、定着剤、蛍光増白剤、防腐剤などを使わず、すべての工程において環境にやさしい方法を選び、メイド・イン・ジャパンにこだわってものづくりをしています。
https://avantijapan.co.jp/
江戸時代に岡山でも盛んになった綿花栽培を軸に繊維(ファッション)産業が発達しました。帯、足袋、紐づくりから発展して、学生服やジーンズ産業へとつながっています。 紡績、織布、染工、裁断・縫製という工程を経て服は出来上がります。岡山には今でもこのそれぞれのノウハウを生かして活躍する企業があります。
染色は、環境に負荷をかけると書きましたが、天然の材料を使った藍染めなどは、環境負荷も少なく、また体を守る効果もあり、今日まで続いています。藍は、虫をはじめ蛇も苦手とする防虫効果や、汗臭さが気にならない消臭効果、染色する事で生地糸を強固にする効果などがあることも、古くから藍染が日本人に愛されてきました。
地元岡山でも染色での環境負荷を少なくしようと頑張っている企業が数々あります。
倉敷市児島にて藍染め、インディゴ染めを手染めで行っている100年以上続く染色工場 高城染工
https://www.takashiro.info/
ジーンズの藍を支え、海の青を守るという理念で、数々の染色技術を開発してきた豊和㈱は、デニムの脱色剤として環境にやさしい糖類を使用した「エコブリーチ」の開発やオゾンを活用する取組みを通して、化学物質の使用量の削減を実施しています。
https://www.howa-net.co.jp/about/index.html
また、倉敷染という岡山県織物染色工業協同組合が染色加工、製品加工における安全性を独自にブラン
ド認定する事業もあり、安全で高品質な繊維製品を提供するために誕生した仕組み(ブランド)などもあります。それらの生地を使い、ジーンズなどを製造するベティスミス、織物、染色、製品を一貫して行うジャパンブルーなど個性的なアパレルも存在しています。
ファッション産業は、原料栽培から最終製品ができるまで国内外で多くの工程と人々が関わっています。それだけに、その背景にあるものが見えにくくエシカルが分かりづらい。だからこそ、どんな人々が関わりその思いを直接伝える取り組みを行っているのがITONAMI(旧EVERY DENIM) ジーンズの本場児島 王子が岳麓に工房と宿泊施設を構え、「工場を見ると職人さんたちの仕事に対する思いが伝わってきて長く大切に服を着ようという心が湧いてくる。」思いをお客様と共有する取り組みもあります。
それだけでなく、デニム製品を回収し、粉砕して綿状に反毛、そこから糸をつくり、生地を織り上げ、そして
再び服となる。 役目を終えた服たちが生まれ変わるトFUKKOKUプロジェクトも展開しています。
https://ito-nami.com/
エシカルファッション 買い物は、選挙と同じ投票です。岡山に住む私達だからこそ、できることは、色々ありそうです。
次回は、「ファッションロスをなくす」をテーマにご紹介します。
